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裏妙義山
五十嵐 雄二

山行日 1966年5月29日
メンバー (L)山本(敬)、野田、溝越、別所、播磨、浅野、佐藤(史)、山本(義)、今村、五十嵐、他1名

 横川の朝風は何となく渋い。今日もまた降られるのかと、心のどこかで太陽の弱さをなじる声がする。東洋のドロミテと形容された岩山を仰ぐ。横川の朝靄にけむる裏妙義。関所跡を過ぎ国道へ、国道を左に分けて古橋を過ぎた所に小さな小屋がある。その裏手より登りにかかる。樹林帯に阻まれ視界も狭い。ただ黙々と高度を稼ぐ。朝飯前の体にはなかなか堪えるが、深緑の青さを腹いっぱい詰めればまた美味い。不動の滝へと書かれた道標を左に見、尚進むと沢に出る。水音、青葉、岩、踏み跡、どこも人、人、...の山を思うに、良い山だなあーと一人悦に入る。沢を左に20分も進むと、第二不動の滝に出た。ここで朝食、10個のラーメンを11人で分け合う。うまい。朝食のできるまでの一時、滝にたわむれ、岩にたわむれ、寝不足の顔を洗う者。こんな時が一番楽しいのかも知れない。朝食も済み、丁須の頭まで後1ピッチ。青葉の間に妙義独特の岩肌が見え隠れする。岩の黒さと深緑が素晴らしい対照を見せる。3、40分も登ったろうか、信越線の車窓より眺め、一度は行きたいと思っていた丁須の頭が見えた。先を急ごう、もうそこに君が待っているのだ。今、君の膝に登ると思うと楽しい。震えながら頭への鎖を掴む。頂は5人も上がればいっぱいの小さな頂きである。視界は360度実に美しい。山敬さんは秋に2人で登るのが裏妙義の真髄だと語る。日本や中国の墨絵に書かれる山を思わせるような山々だ。下手には横川、妙義湖、近くには御岳、これから行く赤岩、烏帽子、またコモリ沢、右俣。遠く靄に霞む浅間山。無情の空からポツポツ。丁須を後に赤岩に進む。変化に富む稜線を楽しみながら、ゆっくり前と後のジョーク合戦を楽しみながら進む。小さな岩山を左に巻いた所で道がなくなっていた。案内書にもある「下らにゃならないチムニー岩」だ。道から隠れるように落ちている。ここは草付が楽そうに見えたので今村さんが下りかけたが、5、6メートルも落ちているのに気が付き他の道をとる。目に見たよりは楽な所だった。チムニーも過ぎ赤岩の頂を目指す。ここで荷をデポして、不明瞭な赤岩への道を進む。先ほどから時々うぐいすの声がしていたが、この辺はまた多く聞くことができた。「ホーホケキョ」青葉の中をさえずっている。赤岩からの展望。丁須の頭が首を傾げ、何となく笑いかけているようだ。正面には烏帽子岩がツンと澄ましていた。赤岩から烏帽子までの道は、鎖やアングルに支えられた橋を楽しみながら進んだ。この鎖場で野田さんが粋な手さばきを見せてくれた。「岩屋さんねえー」の声にまんざらでもなさそう。烏帽子の下を巻くように過ぎて下りにかかる。空はどんより曇り、雨も次第に大粒になってきた。後は雨の中を仲木沢から妙義湖を経て、横川までテクテク。

〈コースタイム〉
横川(4:25) → 登山口(4:45) → 鍵沢(5:10) → 第二不動の滝(5:30~6:25) → 丁須の頭(7:05~8:00) → 赤岩(9:00~9:20) → 烏帽子(10:30) → 三方境(10:05) → 水場(11:20~12:20) → 仲木沢(12:50~13:20) → 妙義湖(13:50) → 横川(14:40)


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