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穂高岳縦走
山行日 1984年8月1日~6日
メンバー (L)宮川、安田、佐藤(明)、小原、近藤、山沢、土橋、福沢、中沢、湯谷、山田

その1 前穂北尾根
湯谷 茂樹

 8月5日、朝起きてテントの外へ出てみると空いっぱいの星が美しい。今日の快晴を約束してくれているようである。朝食を済ませ、山々が美しく明けていく中を北尾根隊は、5・6のコルへ向かう。昨日の横尾から涸沢までの重荷を背負っての登りに比べれば、この登りもそれ程苦にならない。振り返ると槍ヶ岳が青空を背にすっくと立っている。5・6のコルでしばらく休む。単独行の人が一人では不安だということで一緒に行くことになる。ヘルメットを着け、いよいよ出発だ。落石を起さぬよう注意しながら高度感のある岩稜の登降をしばらく繰り返すうちに3・4のコルに到着。奥又白側の岩壁が美しい。この三峰の登りで2ピッチほどザイルを出す。三峰から前穂本峰までは快適な岩稜歩きで、思ったよりも早く着いてしまう。僕にとっては初めての北アルプスであり、初めての3千m峰である。嬉しさが静かに湧き上がってくる。記念写真の後、昼食をとる。オレンジが美味しい。
 奥穂への吊尾根が目の前に現われる。ちょっとした岩峰を奥穂と間違え、本物の奥穂に到着するまで結構長く感じる。奥穂から穂高山荘への下りで線香の香りが漂ってくる、厳粛な気持ちになる。穂高山荘内に飾られている秋の涸沢のカラーパネルの鮮やかな赤が印象的だ。紅葉期にぜひ涸沢へ行ってみたい。
 山荘から山沢さんと合流して涸沢岳へ向かう。涸沢岳で東稜隊と出会う。佐藤(明)さんが顔をほころばせてウィスキーを飲んでいる。北尾根隊は更に北穂へ向かう。最低コルまでの下りは結構いやらしい。北穂頂上に立った時はガスも少し出てきていて、余り展望には恵まれなかったが、北穂小屋のテラスの上で飲んだビールは最高。600円のカレーを味わってみたいという思いを残しつつも、南稜を下山する。雪渓滑り、雪渓滑りと繰り返していた中沢氏が欲求を抑えられずグリセードを敢行したものの、子供に馬鹿にされるなど、ということもあったが全員無事に到着。ビールとタバコの灰を間違えるなど、様々なご苦労をなさった宮川リーダーに心から感謝します。

北尾根隊メンバー
(L)宮川、福沢、中沢、湯谷、山沢(穂高山荘より)


その2 穂高C隊
山田 仁恵

 まだ授業があるのにさぼって山へ行く身なので、せめてもの誠意を見せてレポートを仕上げて新宿駅へ向かう。C隊ともなると見送ってくれる人もなく、乗り込んだ車両は車掌さんもビックリ、クーラーの効き過ぎ。小さくなって松本まで行く。
 タクシーで上高地まで行くと、すがすがしい朝。気がはやるのですぐ歩き始める。重たい荷物が肩に食い込み、腕がしびれる、心とは裏腹になかなか速く歩けない。平坦な道が続き睡魔に襲われる。荷物の重さと眠気に耐えかねて横尾での昼寝を提案。元気一杯で早く行きたそうな湯谷さんを見ない振りして1時間河原で眠る。
 いよいよ斜面が始まり汗をポタポタ流しながら、ボッカの本番。やたらと人に会うので挨拶は当番制にしたいくらいだ。目まいがするけど石じゃないから捨てられない。「やっぱり冬山は無理そうだ」と確信しながら一歩一歩足を運んでやっとの思いで涸沢に着く。ついにあの涸沢に来た!とミーハー的に喜ぶ私。着いて早速飲み会となる。小原さん作の粉ジュースが美味しかったこと。
 翌日、C隊の他の二人は北尾根へ。未熟な私は東稜へ。それも明さんのザイルに繋がれながらのポチ姿。ザイルがあったせいか、高さ怖さを感じずに快適に進んで行く。何と言っても荷物が軽いのが嬉しい。槍や大天井を感激しながら眺めて、出発前のリーダーの「穂高は本当に良い所です」の言葉をかみしめて歩く。コースは他の人が書くと思うのでご参照ください。雪渓下りを楽しんで涸沢へ。
 その翌日、予定を繰り上げて下山。ちょっと物足りないけど最初はこんなもんかな? メンバーの出入りやコースのバラエティさで、リーダーは苦労が絶えませんでしたね。どうもありがとうございました。


その3 穂高岳B隊
近藤 真理子

 8月3日、「涸沢へ入るまでが大変だよ」そうですね。肩に食い込むザックを背負って歩いた上高地からのだらだら道と本谷橋からの登り、夜行列車でよく眠れなかったことも重なって、休憩で腰を下ろしたらもう立ち上がりたくないと思うような7時間でしたが、おかげで涸沢では最高においしいビールが飲めました。そのビールがちょうどなくなる頃、途中横尾で会えた赤松さんが涸沢まで駆け登ってきてくれて、この日は先発で岩登りをしていたA隊の宮川さん、安田さんと合わせて8人で賑やかな楽しい夕食となりました。
 8月4日、朝3時に起床。テントの外は星がきれいでした。たくさんありすぎて正座も良く分かりませんが、どれも眺めている間に消えていってしまいます。今日も良いお天気のようです。テントを5時に出発。北尾根のV・IVのコル目指して、雪渓を歩き始めます。雪渓の後のジグザグ道は長く続きますが、かたわらに高山植物が咲いていることと、何よりも雨具と行動食ぐらいしか入っていないサブザックがうそのように軽いことで嬉々として歩いていたようです。
 いよいよ岩稜帯を歩き始めます。岩はしっかりしていて、だいたい気持ちよく歩けるのですが、時々大きな浮石があり冷やりとします。かなり大きな浮石を危ないからと、明さんが後ろにパーティがいないことを確かめて落してくれたのですが、一つの石が落ちていく時にいくつもの石を巻き込み、大きな音が岩稜帯に響き渡り、恐いような気持ちになりました。一つ後ろにいたパーティは、私達を石を落しやすいパーティとでも思ったのか距離をおくつもりらしく、しばらく動こうとしませんでした。岩稜帯は続きますが、空は青く遠くに槍ヶ岳が見え、足を踏み外す心配さえなければ足元から下を覗き込んで、時々ゾウゥとするのも気持ちのいい歩きでした。
 アップダウンを2回ほど繰り返した後、III・IVのコルに着き、いよいよザイルが必要な岩場となったわけですが予想通り先行パーティがいて、ここで小1時間ほど順番待ちとなります。待っている間にも後続のパーティがコルに着き、「最後の方はどなたですか」等と聞いています。
 ジュースを飲んだり、日なたぼっこをしたりして待っていたのですが、暇なので人の真似をして少し下の雪渓まで降りて雪を掘り出してポリタンに詰めていたら「そろそろ行くぞ」と声がかかったので慌てて戻りました。
 宮川さんがトップで行き、次に安田さん、小原さん、私、土橋さん、山沢さん、佐藤さんの順番に登ります。安田さんと小原さんは次のルートの準備をするようです。プルージックでよいしょ、よいしょと登って行って、えいと岩を抱えるようにして乗り越えたら、向こう側がズウーンと下まで切れ落ちていて恐いなあと思ったのですが、ザイルを目で辿ってみればどうもここを行かなくてはならないようです。切れ落ちている所のちょっと下のちょっと先に、ツルーとした岩が斜めにあって、足がとどくかとどかないかの所に、足が置けそうな割れ目があります。もうちょっと近い所にないのかと手前を探しますが、手足の短さを実感しただけに終り、しかたがないので斜め下まで足を伸ばして頑張ることにしました。何とかそこを抜けてホッとしたら、土橋さんがさっきの所で顔を出し「ここを行くの?どっち行ったの」と叫んでいます。どうしようかな「私は左だったけれど、どっちがいいかな、右でも行ける?」彼女はカラビナを回収してこなければならない分だけ大変でしょう。
 彼女が登ってくるのを眺めていたら、三ッ峠で一緒に練習した時のことを思い出しました。おっと、ぼんやりしてたらいけません、上を向いてまた始まります。しばらく行くと確保してくれている宮川さんが見えました。なんとなく安心して、大きな岩を抱えるようにして廻り込んだら、ぐらっと動いた(ような気がしただけ)ので最後に冷やりとしてビレー解除となりました。次のピッチは安田さんと小原さんが確保してくれています。もう少しという所で上から「ここまで来れば楽勝だよ」と声がし、そこで岩にしがみついているところを写真に撮ってもらいました。後は歩いていたら前穂に着きました、という感じでしょうか。尾根を登ってくる途中快晴だったので頂上に出たら、これはさぞかし・・・と期待していた展望も頂上に着く頃、ちょうどガスがかかってきて、下の上高地も隣りの奥穂さえもよく見えなくなってしまい大変残念でした。しばらく休憩してから吊尾根を経て奥穂に到着。いつものようにビールで乾杯。下りが心配だなと言ったら「大丈夫、アルコールが少々入っている方が、スピードも出るしけがもしにくい」などと誰かが言います、ほんとでしょうか。ザイテングラードを駆け降りて行くと涸沢まであと少しの所に雪渓が残っているのですが、その雪渓下りの愉快なこと。「転ぶなよ、転ぶと恥じだからな」なんて恐い顔して言っている、どこかよその山岳部の若い男の子たちを尻目に、滑って転んで他人の姿を見て笑い、全く笑いジワが残るんじゃないかしらと思うような今日のフィナーレでした。涸沢ではC隊と合流し合計11人、明日は東稜と北尾根に分かれます。

〈コースタイム〉
8/3 上高地(6:55) → 徳沢(8:45) → 横尾(9:55) → 涸沢(13:50)
8/4 涸沢(5:00) → 前穂(9:30) → 奥穂(12:00) → 涸沢

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