雪山登山・聖岳東尾根
石毛 恵

山行日 2025年12月27日~30日
メンバー (L)石毛、梅田、青木

 昨年、易老渡側から登る聖岳の例会参加を表明していたが、結局その例会は中止となり、聖岳に登る機会は流れてしまった。その際にルートを調べている中で知ったのが、冬季バリエーションルートである「東尾根」だった。
 アプローチは長く、急登が続くタフなルート。しかし、展望は素晴らしい、そう記された記録に惹かれ、その時から「次に聖岳へ行く機会があるなら東尾根で行こう」と決めていた。
 年末にどこに行こうか考えていた時に、昨年の年末山行「北岳吊尾根」が楽しかったことを思い出し、漠然と南アルプスがいいなと思った瞬間、行先はほぼ決まった。
 南アルプス、冬季バリエーションなら聖岳東尾根に行こう。昨年の北岳メンバーの青木さん、うめちゃんに声をかけ、今回の山行が決まった。

【12月27日 晴れ】
 当初の計画では、26日(金)の仕事納め後に準備をして27日(土)夕方に余裕をもって前泊地入りする予定だった。しかし直前の天気予報で、アタック予定日の30日の天気が悪化する予報に変わり、急遽、26日(金)夜発に変更。そこからは仕事と荷造りとの格闘だった。
 ギリギリまで仕事が終わらず、このままでは出発できないのではと焦りながらも、無理やり区切りをつけて何とか出発。帰省渋滞に若干はまり、前泊地に着いたのは午前2時。倒れ込むように就寝した。
 翌朝は5時起床。前泊地からクネクネした道を1時間以上走って沼平ゲートの駐車場へ到着。準備をして7時30分に出発する。
 ここから登山口までは約14kmの舗装路歩きだ。最近の記録を見ると自転車で登山口まで入る人が多いが、駐車場でも赤石岳を目指すという2人組と会話を交わした。2人とも自転車アプローチとのこと。正直羨ましさでいっぱいだが、我々は歩く以外の選択肢がない。「歩き続ければ、いつかは着く」これを今回3人の合言葉に、ひたすら歩き始める。
 距離は長いが舗装路なので歩きやすい。10km地点までは順調で「結構余裕かもー」などと軽口を叩いていたが、残り4kmの道はアップダウンが多く一気に堪える。前言撤回。調子に乗ってごめんなさい。
 4時間かかってやっと登山口に到着。初日は1,600m~2,000mの間にいくつか幕場の目星を付けていたが、睡眠不足の中14kmを歩き、疲れも出ていたため、1,600m地点で幕を張るということで3人の意見が一致した。
 ただ、周囲を見る限り1,600m地点では雪が全く無さそうな気配だった。荷物を増やすことは躊躇われたが、沢から水を汲み、1人2Lの水を担ぐことにした。
 ここからやっとスタートだ。
急登スタート  初っ端から急登が続き、登山道崩壊箇所を慎重に通過して小屋跡手前の尾根に取り付く。ここからは一般道から外れ、バリエーションルートとなる。尾根を外さないようルートを取り、何とか1,600m地点のコルに到着。
 平らな場所はあるものの、雪が全く無いため石がゴロゴロしており、このままではテントは張れない。だからといってこれ以上登る気力もない我々は、石をすべて除け、出ている根を引き抜き、大工事の末に無事テントを張ることができた。
 テントに入ると、あまりの眠気に3人でしばし昼寝。目覚めて少しすっきりした頃にお腹も空いてきたので、青木さん特製の鍋をいただく。生姜が効いていて美味しい。初日は宴会もそこそこに、早めの就寝となった。

【12月28日 晴れ】
 2日目は白蓬の頭まで、まずはジャンクションピークを目指して歩き始める。幕場候補としていた2,000mを少し過ぎた2,080m付近に景色もよく、なかなか良さげな場所があったが、ここまで登っても水が作れるほどの雪はなく、水を担いで1,600m地点で幕を張って正解だったと実感する。
 2,100m付近から雪が増え始め、凍結箇所も出てきたためアイゼンを装着。傾斜はさらにきつくなり、手を使って体を引き上げながらの登りが続く。重荷が堪えるが、何とかジャンクションピーク(2,250m)に到着し、ここで東尾根に合流する。
 ここまで来ると雪も増え、すね程度のラッセルとなる。東尾根末端からの登山者もいないようでノートレースだ。この日は無風快晴の絶好の登山日和だったが、他パーティーの姿は見当たらず、静かな山歩きだ。

雪山らしくなってきた白蓬の頭まであと少し・・・

 膝丈のラッセルになったところでワカンに履き替える。若干重めの雪の中、急登ラッセルに体力を削られながらも何とか進む。景色が開けると白蓬の頭に到着。
 正面には雄大な赤石岳が鎮座していた。圧倒的な存在感で、とても格好良い山だ。沼平ゲートで会った2人組は2泊3日の予定と言っていた。この快晴の中、順調に行動できていれば、すでに登頂している可能性も高いだろう。

白蓬の頭より望む赤石岳  樹林帯に少し入ったところにテントを張る。途中の休憩で電波が入ったため翌日の天気を確認すると、午後から風が強くなり天気が崩れる予報だった。出発前の予報よりも天候悪化が若干前倒しになっていたため、翌日は暗いうちに出発し、午前中に登頂、昼までには幕場に戻る計画とした。幕場からしばらくは起伏の少ない地形であり、暗い中を歩くとルートを外す恐れがあるため、テント設営後に顕著な尾根に取り付く手前までトレースを付けに行くことにした。
 空身で往復1時間程度トレースを付けて幕場に戻ると、テントが1張増えていた。ソロの方のようだ。年によってはテント村になる時もあるらしいが、今年は少ないようだ。
 2日目の夜はうめちゃんが食当でお鍋をいただく。大量の野菜とお肉を運んでくれてありがとう。いっぱい食べて明日に備える。翌日の出発が早いため、この日も宴会は控えめにして就寝。

【12月29日 晴れ】
 3日目、いよいよアタックだ。風は出てきているが、この程度であれば登頂可能と判断。風が強くなった場合は無理せず奥聖岳までとすることを確認して出発する。
 トレースのおかげで暗闇の中でも迷うことなく尾根の取り付きまで楽々到着。昨日の自分に感謝!!
 しばらくはワカンで進み、途中でデポしてアイゼンに履き替え、ノートレースの細尾根を進む。右手に赤石岳、左手に上河内岳・茶臼岳、背後には富士山。この展望の中を歩くために東尾根に来たのだと、改めて実感する。

朝焼けの中を歩く右手に赤石岳

富士山を背に  後ろを振り返ると、下方に7~8人ほどのパーティーが見えた。当然同じルートを上がってくるものだと思っていたが、しばらく見ていても動きがない。やがて、そのパーティーは引き返していった。
 風が徐々に強まる中、急登を一段ずつ登り詰めて奥聖岳登頂。

奥聖岳山頂  出発前は「奥聖岳まで行ければ十分」と思っていたが、奥聖岳から見た前聖岳は、思っていたよりもずっと近い。ここまで来て前聖岳に行かないのはもったいない、3人の意見が一致し、荷物をデポして空身で前聖岳へ向かう。
 風は強いが、いわゆる“ビクトリーロード”だ。

前聖岳へのビクトリーロード  時折襲ってくる突風を耐風姿勢でやり過ごしながら進み、前聖岳に到着。長いアプローチ、ラッセル、重荷、急登、それらの末に辿り着き、しかも全員が聖岳初登頂だったこともあり、喜びはひとしおだった。しかし強風の中、長居はできない。記念撮影を終え、来た道を引き返す。

前聖岳登頂!!  奥聖岳直下の下りは緊張感が続く。足場の不安定な箇所では確実なスタンスを探しながら慎重にクライムダウンする。風はさらに強まり、稜線上では身体を持っていかれそうになる瞬間もあった。

下山は慎重に  高度を下げるにつれて風は幾分和らぎ、樹林帯に入ったあたりでようやく緊張が解ける。この時間帯に無事下山できていることに安堵しながら、幕場へ向かう。途中で2人組とすれ違う。この時間帯から登りに入る行動計画なのか?時間帯を考えるとやや遅い行動のように思えた。
 昼過ぎにはテントに戻る。登頂成功の喜びを分かち合い、早めの宴会を開始する。しばらくするとテント横を先ほどの2人組が通っていく。やはり途中で引き返したようだ。
 テントは風の影響を受けない場所だったが、外から聞こえてくる風の音は次第に強まっていた。3日目の夜は私が担当でカレー鍋。最終日も長い工程となるため、この日もお酒はほどほどにして就寝した。

【12月30日 曇り時々雪】
年末恒例の朝ごはん  最終日の朝は、年末山行恒例の「お汁粉」を食べてから撤収作業。
 登りはラッセル苦労した道が、団体パーティーのトレースによってすっかり歩きやすくなっていた。白蓬の頭から少し下がったところにテント2張の跡があり、団体パーティーはここに幕を張ったようだ。
 ジャンクションピークからは激下りが始まる。2,200m付近にテント跡があり、どうやら2人組パーティーのものと思われた。
 あくまで憶測だが、団体パーティーも2人組も、過去の東尾根の記録をもとに2泊3日の計画で入山したのではないかと思った。確かに2泊3日で登頂している記録はいくつもあるが、軽量化の具合やパーティの状況によって同じルートでも結果は大きく変わる。あくまでも人の記録は参考資料として計画を立てることが重要であると改めて考えさせられた。
 4時間半かけてやっと登山口に到着。これから14km歩くことを考えると腰が重くなり、30分ほど大休止の後に沼平ゲートへ向けて出発する。3日間の疲れもあり、最初のアップダウン4kmで一気に消耗。残り10kmは2.5km刻みで休憩を入れながらひたすら歩く。

遠い・・・中ノ宿吊り橋

 途中、笊ヶ岳に向かう中ノ宿吊り橋に寄り道する。なかなか怖い造りと高さで、うめちゃんが「大丈夫だろうけど、建築に携わる者としてこの橋は渡りたくない」と言っていたのが印象的だった。
 最後の方になると3人無言で歩き続け、13kmを過ぎた地点、カーブを曲がり、遠くに沼平ゲートが見えた瞬間、あまりの嬉しさに3人とも言葉にならない悲鳴のような雄たけびを上げる。
 「歩き続ければ、いつかは着く」その言葉が、胸に沁みる瞬間だった。暗くなる前になんとか駐車場に到着し、今回の山行を無事終えることができた。

【下山後】
宴会最高!! お疲れさまでした  2年連続、同じメンバーで南アルプスの雪山を満喫することができて大満足。気心知れた仲間との山は本当に楽しいと、今回の山行で改めて実感することができました。
 青木さん、うめちゃん、お付き合い頂きありがとうございました。

〈コースタイム〉
【12月27日】 沼平ゲート(7:30) → 聖岳登山口(11:30) → 1,600m地点幕場(14:30)
【12月28日】 幕場(6:50) → ジャンクションピーク(10:20) → 白蓬の頭(13:30) → (トレース付け後)幕場(15:00)
【12月29日】 幕場(5:50) → 2,800m地点(8:00) → 奥聖岳(9:10) → 前聖岳(9:40) → 幕場(12:20)
【12月30日】 幕場(7:00) → 聖岳登山口(11:30) → 沼平ゲート(16:20)