縦走・大峯奥駈道
永岡 恵二

山行日 2025年12月27日~2026年1月2日
メンバー (L)永岡、川口(修)、大瀧

 今年の年末年始の長期山行は、昨年末に大雪で敗退した大峯奥駈道のリベンジを果たすべく決行した。大峯奥駈道は厳しい山々と深い森に日本最古の霊場とされる弥山や八経ヶ岳など神秘的な山岳信仰の舞台となった歴史ある道である。三峰山岳会でこの道を踏破できたのは、70歳を超えても活躍している佐藤、齋藤の2名のみである。積雪期に踏破したものはまだいない。これを永岡、川口、大瀧の3名で臨むことになった。1か月以上前から酒を控え、トレーニングなどして、入念に体力づくりを進めた。幸いにも出発日近くになっても雪は降らず、絶好のコンディションの中で挑むことになった。しかし、雪がなければ水が乏しいルートのため、水問題が発生する。一応地図上には水場があるが、枯れている可能性もあるため、不安な中のスタートとなった。

【12月27日(土)】
 今年の出発点は昨年敗退下山した洞川(どろかわ)温泉とした。ここは奈良県吉野の山奥深くに位置し、その歴史は古く、奈良時代に発見されて以来、古くから修行や巡礼の地として利用され、役行者や弘法大師なども訪れた温泉地である。
 洞川温泉から登山口の清浄大橋までは長い車道のため、タクシーを使おうと思い予約を入れたが、年末ということもあり、洞川温泉からの短距離のタクシーは空きがなく、下市口駅から長距離タクシーとなった。
 小雪が舞う清浄大橋の登山口で準備をすると、オーバーパンツを忘れたことが判明。予報では年始位に崩れそうだが、概ね天候が良いため、そのまま決行することにした。

女人結界からスタート山上ヶ岳山頂

 1~2日前に降った雪が積もっていたが、今日の雪で深くなることはなさそうだ。昨年五番関から来た時、雪の多さで苦労した洞辻茶屋は今年は殆ど雪がなく、また人もおらず静寂に包まれていた。洞辻茶屋から少し行くと登山道の雪が凍っており、そこからはアイゼンを装着し、山上ヶ岳へ。展望はないが穏やかな山頂で記念撮影をして、すぐに今宵の宿、小笹ノ宿避難小屋へ向け下山を開始。昨年雪が多くルーファイに苦労したが、トレースもあり、迷わず到着。しかし、既に小屋には先客があり、我々が入るスペースはなく、初日からテント泊となった。

【12月28日(日)】
大普賢岳山頂  翌朝、テントは思ったほど濡れておらず、軽やかに出発。小屋泊のパーティーが早々に1時間位前に出発したので、これでトレースをしっかりつけてくれると喜んだのもつかの間、1時間程すると追いついてしまい、今度は我々がトレースをつけて進むことになった。
 大普賢岳から行者還避難小屋までのルートは鎖場が多く、鎖場の度に追いつき追い越されを繰り返す形で進み、行者還避難小屋に到着。
 予定では奥駈道出合位まで行ってテント泊の予定だったが、行者還避難小屋がきれいで快適だった事もあり、予定を変更し、小屋泊とした。水場は来た道を少し戻り、最後の階段を上がってルンゼを少し登ったところにあり、かなり細かったが何とか取ることができた。小屋は広く、テントを張って乾かすことが出来た。テント内で休んでいると、「三峰の方ですか?」との声。驚いてテントを出ると昨年小笹ノ宿避難小屋で一緒だったソロの人だった。今年も吉野から入ってきたそうだ。二日目で我々に追いついてきた形である。

【12月29日(月)】
弥山神社にて  本日は大峯奥駈道最高峰、八経ヶ岳登頂の日だ。古くから修験者たちの修行の場として踏みしめられた歴史ある山岳信仰の象徴的な山である。左に朝日を見ながら緩やかな稜線を南下し、一ノ垰から西側にカーブし弥山へ向かう。緩やかな道で雪も少なく広々としていて見晴らしもよい。時々シカが我々に気づいて逃げて行った。聖宝ノ宿跡で一休みし、一気に弥山へ。ここからは少し雪も深くなり、斜面も急になった。弥山神社(弥山山頂)でこれからの安全登山を祈願し、弥山小屋でひと休みして、いよいよ最高峰の八経ヶ岳へ。
 日帰り登山者が多いため、雪は深いがトレースはバッチリあり、全く問題ない。しかし、山頂は雲の中で展望は望めないと落胆していたが、山頂に到着すると雲が途切れて青空になった。真っ青な空、奥駈道の山容がまた一段と神秘的に感じた。
八経ヶ岳山頂  山頂で景色を楽しんだ後、明星ヶ岳方面に進む。ここから先に行く人は少ないため、トレースもなく、少し苦労するが、快晴の中、気持ちよく進めた。本日の宿は楊子ヶ宿小屋。北側を下ったところに水場があるが、雪がかなり積もっており凍っているのではと不安だったが、何とか取ることができた。

【12月30日(火)】
釈迦ヶ岳山頂  八経ヶ岳を越え今日は特にイベント的な山がなく、何となく盛り上がりに欠けるというメンバーもいる中、今日は出来るだけ距離を稼ごうと、頼りになる川口隊長を先頭にして、タヌキ体型の隊員二人を引っ張って行ってもらうことにした。ルートは下り基調の緩やかな道なので歩きやすかったが、1,800m付近で雪がまばらになってきて、釈迦ヶ岳の下りでは岩場でアイゼン歩行しづらくなった。
 下りきったところの深仙小屋でアイゼンを外した。持経ノ宿小屋まで水場がないことから、深仙小屋の北側にある香精水で水を取るが、昨日以上に細く6L取るのに30分近くもかかってしまった。
深仙小屋  ここから先は南奥駈道となる。アイゼンを外し歩きやすくはなったが、水の重さが肩にのしかかり、隊長と隊員との差が広がっていった。できれば持経宿小屋まで行きたかったが、薄暗くなってきたこともあり、乾光門(拝み返しの小屋跡)でテント泊とした。小屋跡だけあって快適な幕場だった。夜は西からの強風が吹き荒れていたが、風はテントの上を通過していたようでテントには影響はなかった。

【12月31日(水)】
涅槃岳からの今年最後の日の出  今日も出来るだけ距離を稼ぐために暗いうちから出発。すぐの涅槃岳に登頂すると正面からちょうど朝日が上がってきた。今年最後の日の出だ。
 今年も最後まで安全登山できることを祈願して手を合わせた。その後は緩やかな稜線を進み持経宿山小屋に到着。小屋には薪ストーブがあり、快適そうである。新宮山彦ぐるーぷが管理しており、この先の平治宿山小屋、行仙宿山小屋も同様に管理して頂いているとのこと。緩やかな稜線を進み、平治宿山小屋に到着。ここには初めて見る円筒形の薪ストーブがあった。引き続き、快適な稜線を進み、行仙宿山小屋に到着。嬉しいことに小屋にはビールとご自由にお飲みくださいと日本酒が置いてあった。当初の予定は笠捨山を越えて葛川辻あたりでテント泊と思っていたが、この素晴らしい小屋で大晦日を過ごしたいという意見でメンバーが一致したため、早いがここで本日は終了。

快適な行仙宿山小屋年明け前に頂きました(笑)

 水場は小屋からだいぶ下ったところにあったが、着いてみるとほぼ枯れており、結局山彦ぐるーぷが小屋に運んでくれた水道水を使わせて頂くことにした。この小屋にも薪ストーブがあり、薪も用意されていたが、この小屋の大きさには小さかったようで、あまり暖かくはならなかったが、テントが乾かせたのはうれしかった。毛布もあり、有料だが、電気がついて、スマホの充電もでき、電波もつながる素晴らしい宿だった。ありがたくビールと日本酒を頂き、大晦日らしく、紅白を聴きながら就寝

【1月1日(木)】
初日の出 新しい年の始まりを迎え、この山行もいよいよ最終章に入る。まずは笠捨山までの登り。左手に今年の初日の出を見ながら、緩やかに高度を上げていく。
 右手にはこの先の槍ヶ岳、地蔵岳が見える。昨夜の暴風のような状況だったら巻き道に行こうと考えていたが、特に問題なさそうだ。笠捨山を通過し槍ヶ岳、地蔵岳に差し掛かると、鎖場になった。今回の山行で一番の難所。ちょっと間違えると崖に真っ逆さまに滑落しそうなところだ。昔は鎖などなかったのだから、昔の修験者にとっては、ここは山の神域を感じる場所だったろう。ここで少し時間を要したが、その後は順調に進んだ。玉置神社近くになってくると車道も出てきて、下界を感じ始めた。途中、玉置神社の駐車場の売店経由の大瀧氏と玉置山経由の川口、永岡とで分かれ、玉置神社で待ち合わせすることにした。ちょうど我々が玉置神社に到着したと同時に大瀧氏も到着。玉置神社では神社の方に一声かけて水をもらうが、水道はすぐに止まってしまった。困惑していると、別の神社の方が親切に声をかけてくれて、改修中の社務所の飯場の水を分けてくれた。水が確保できたことで、安心して本日の幕場予定地の玉置辻に進み、薄暗くなる前に到着。玉置辻は車道の横だったので、少し奥まった林道に幕を張った。最後の夜ということで盛り上がり始めた時に外から「奥駈道ですか?」との声。てっきり怒られるかと思ったら、ソロで吉野から歩いてきた方だった。なんと3日でここまで来て、今夜中に本宮まで行くとのこと。凄い人がいるものだ。

【1月2日(金)】
大鳥居で  最終日の朝。まだ薄暗い中、山の静謐さと修験者たちが祈りをささげたこの道の歴史を胸に抱きながら歩を進める。特に厳しいところはないが、長い。ところどころ、眼下には人家も見え、すぐに本宮に着きそうな感じだが、微妙な上り下りの繰り返しでなかなか人里の方に下ることができず、精神的疲労が蓄積してくる。車道、登山道を繰り返し歩いてようやく熊野川に到着。夏なら渡渉して本宮までショートカット出来るが、渡渉はせず、遠回りして備崎橋経由の車道で熊野本宮方面へ。車道は熊野本宮の初詣の車で大渋滞だった。本宮行政局前バス停に荷物を置いて、大鳥居方面の大斎原熊野本宮大社で初詣。 本宮大社の鳥居で  続いて、熊野本宮大社へ移動し、2回目の初詣。この熊野で三峰山岳会の安全登山を2回祈願したので、今年は皆安全に登山が出来るだろう。
 初詣を終え、古の修験者たちが祈りと修行を重ねた大峯奥駈道を7日間共にした川口氏、大瀧氏と固い握手を交わし、長く厳しい山行は幕を閉じた。

【おまけ】
 16:10発のバスで新宮へ。新宮からの特急は満席で乗れず、名古屋まで行くことが出来ないため、各駅電車で、途中の松阪のホテルに泊まることにした。松阪といえば松阪牛。当然松阪牛の焼き肉で打ち上げと考えていたが、年始で店は開いておらず、ホテルの部屋でコンビニの酒とつまみで質素な打ち上げと覚悟していたところ、コンビニ隣の居酒屋が営業していた。松阪牛にはありつけなかったが、無事に打ち上げすることが出来た。

【川口氏感想】
 昨年(2024年)の年末年始、さてどこへ行こうかな〜と悩んでいたところ、お正月を跨ぐ企画として大峯奥駈道をKGさんが例会に出しており、1人でも行こうと思っているとのことなので便乗させてもらうことにした。
 熊野古道の中でも最も険しいとされる約100kmに及ぶ山岳修行の道を冬期に・・・面白そうである。
 吉野から入り後段の南部は標高も下がり雪もないことが予想されること、事前情報では山上ヶ岳、弥山、八経ヶ岳あたりの積雪の多いところでも最大50cm程度ということで、雪山をある程度想定しつつも、ワカンなどは持たずに吉野から入山した。雪は予想以上だったが、吉野から五番関あたりまではなんとか順調に行ったものの、2日目に山上ヶ岳に向けて標高を上げて行くと積雪は更に増えた。ただ、さすがはメジャールートで山上ヶ岳まではトレースもあり、概ねいいペースを維持できた。ところが山上ヶ岳の先はノートレース・・・しかも場所によっては腰まで埋まるほどの積雪で一気にペースが落ちる、当然ルートも不明瞭となり小笹ノ宿まででギブアップ、翌日は洞辻茶屋まで戻り、洞川温泉に下山しわずか3日での敗退となった・・・
 少々前置きが長くなったが、そんなこんなで今回はネギちゃんも加わり3人で賑やかに洞川温泉から再度挑戦することとなった。
 細かい話はKGさんにおまかせするが、1,300年も前から修験道として歩かれてきたルートはやはり歴史感にあふれ、見どころ満載、随所に手入れの行き届いた山小屋もあり冬季じゃなければ多くの登山者(修験者?)で賑わっていることと思う。
 雪化粧に彩られた冬に、この古道を静かに味わえたのはとても贅沢な時間であった。ただ、さすがは修験道、約100kmに及ぶ稜線が繋ぐ山々のピークをほぼ漏れなく踏破しなければなないこと、あと水が乏しい山域であることに留意して臨む必要がある点を申し添えておく。
 旅の終わりに熊野本宮で初詣となり、一年の良い幕開けとなった。企画してくれたKGさん、道中花を添えてくれたネギちゃんには感謝である。

【大瀧氏感想】
 2026年に無雪期の縦走計画を練っており、どうせ行くなら積雪期も縦走し2つの景色を味わいたいとKGさんリーダーの年末山行に手を挙げました。
 清浄大橋から入り熊野大社までの行程は、距離もさることながら鎖場やアップダウンが連続するなかなかハードな6泊7日でした。遠くから法螺貝を吹く音が聞こえたり、さすが修験道!と随所に感じるルートでした。
 今回雪が多くなかったためラッセルは免れましたが、その代わり水を担ぐ必要があったり水が確保できる場所を考えて行程を組んだりと別の苦労が発生しました。
 今回の山行で一番苦しんだのが毎日の食事。連日アルファ米を食べながら、下山後に何を食べるかを妄想しながら歩き続けた7日間でした。改めて食べたいと思った物をいつでも食べられる暮らしや欲しいと思ったものがすぐに手に入る暮らしがいかに便利で贅沢なことなのかを痛感。新しい年を迎えるにあたり、日々の有り難さに気付くよい機会となりました。
 KGさん、川口さん、ありがとうございました。一人だったら間違いなく途中で心が折れていました。毎晩食べたい物の話にお付き合いいただき感謝です。また長期山行宜しくお願いします!

〈コースタイム〉
【12月27日】 清浄大橋(9:30) → 山上ヶ岳(13:20) → 小笹ノ宿避難小屋(14:45)
【12月28日】 小笹ノ宿避難小屋(7:00) → 大普賢岳(10:10) → 行者還避難小屋(14:10)
【12月29日】 行者還避難小屋(6:50) → 弥山小屋(11:15~11:50) → 八経ヶ岳(12:30) → 楊子ヶ宿小屋(16:00)
【12月30日】 楊子ヶ宿小屋(6:40) → 深仙小屋(10:40~11:40) → 乾光門(15:45)
【12月31日】 乾光門(6:30) → 持経宿山小屋(8:30~9:00) → 平治宿山小屋(10:00~10:20) → 行仙宿山小屋(13:35)
【1月1日】 行仙宿山小屋(7:10) → 笠捨山(8:50~9:00) → 玉置山(15:40) → 玉置神社(15:55~16:25) → 玉置辻(16:45)
【1月2日】 玉置辻(6:35) → 備崎橋(14:00) → 熊野本宮大社(14:45)